「人間は権威のある人から強い影響を受ける」
人間は、他者から影響を受けながら生活しています。
特に大きな影響力を持つのが、その人にとって権威を持つ人物です。
今の時代、こんな詐欺まであるらしい!
〇〇警察署の△△です。 これから詐欺の常習犯を逮捕しますので、ご協力をお願いいたします。 おそらく、2時間以内にお宅に犯人が行くはずです。 その際に警察を装って、『通帳を確かめたいから預けて欲しい』と言います。 言われたら、断らずに渡してください。 近くに張り込んでいる警官がすぐに逮捕します。逮捕後は、速やかに 責任を持って本物の警官が通帳をお返しに伺いますので、ぜひご協力をお願いいたします。
どうしてわざわざ預けないといけないのですか?
物的証拠があると確実に逮捕できるからです。よろしくお願いいたします。
この手口、けっこう引っかかる人も少なくないらしいです。
詐欺の手口はますます巧妙化しているようです。
人の善意につけ込む許しがたい行為ですね。
「権威(社会的勢力)の原理」とは
社会的な権威から受ける影響を心理学では「権威(社会的勢力)の原理」と呼びます。
この「社会的勢力」=「権威を持っていると思われる人」とは、
- 実際に高い社会的地位についている人物
- 地位を象徴するようなステータスシンボルを持っている人物
のことを指します。
前述の詐欺が成功するのは「警察官」という権威があるからです。
警察官、大学教授、弁護士、医者、大会社の社長などは1に該当します。
「消防署のほうから来ました」と昔からあったやり口も「消防署」という権威を利用したものです。
2としては、
- 高級車に乗っている
- 高価なブランド品を身につけている
など、少しでも権威を感じさせるものがあれば、社会的勢力が強く働き、結果的には人は簡単にその人物のことを信じていやすくなります。
この心理を利用して権威を持たせることを権威づけといいます。
「権威づけ」は社会の中で多く行われており、その権威に従ってしまう人も多くいるということを知っておいた方が安全です。
心理学者のフレンチとレイブンは、「社会的勢力」についての研究で、次の5つの影響力を挙げています。
①賞勢力(しょうせいりょく)
この人物に従うと「いいことがある」と思わせる影響力
②罰勢力(ばつせいりょく)
この人物に従わないと「罰や損失をこうむる」と思わせる影響力
③正当勢力(せいとうせいりょく)
社会的な立場上、従うべきであると思わせる影響力
④専門勢力(せんもんせいりょく)
専門家という立場に従わせようと思わせる影響力
⑤参照勢力(さんしょうせいりょく)
魅力ある人物に憧れ、真似をしたいと思わせる影響力
その後、他の研究者たちから次の2つの社会的勢力も提唱されています。
⑥情報勢力(じょうほうせいりょく)
メッセージに説得力があるから、従いたいと思わせる影響力
⑦魅力勢力(みりょくせいりょく)
魅力ある人物や好意を持った人から頼まれたら従ってもいいと思わせる影響力
誰もが無意識のうちに、意図的に影響させられ、操られていることが多いことを理解しておくべきでしょうね。
「権威(社会的勢力)の原理」の活用例
「〇〇大学医学部の××教授が推奨している」
- 大学教授の名前を使うと一般人は信用しやすくなります
厳しい上司から「◇◇をやりなさい」
- 「出世に影響する」「嫌われたくない」と感じる
「私は◆◆の専門家です」
- 自己の知識・技術への権威付け
「研究」「~家」「~官」「~師」「~士」に弱い日本人
「研究」という言葉には、つい一目置く傾向がありますね。
「小説家」「作曲家」「作詞家」などと聞くと、何か特別な人という感情を持ってしまうかもしれません。
「面接官」に対しては誰しも緊張して接するでしょう。
「検察官」「刑務官」など権威を持たせる職種が多いことも確かですね。
ところが、
「私は〇〇の研究家です!」
これはちょっと微妙ですね。研究者と研究家は境界は曖昧ですが意味が違います。
「鉄道模型研究家」「昆虫研究家」「登山研究家」「スマホゲーム研究家」など「研究家」はどんな言葉に付けても違和感がありません。
「俺は、六大学野球研究家だ」
と言っても、
「趣味を極めている人なのだな」で済みます。
ところが、「六大学野球研究者」と言われたら、ニュアンスが変わります。
また、「昆虫研究者」となると、昆虫関係の論文を書いている学者を連想しますし、「スマホゲーム研究者」といわれると、「工学部がそんな研究をする時代になったのか!?」と思わせるかもしれません。
だから、「私は〇〇の研究家です!」というのは、趣味を究めている人やそれを自営にして活躍している人、というニュアンスになりそうです。
境界線が曖昧であることは重ねて書いておきますが、「研究」という言葉にも「権威」を狙って使うケースがあるので注意は必要かもしれません。
それはさておき、
もともと権威がある人はやたらと「私は専門家です」などと言いません。
病院のホームページを見ても、
「私は医療の専門家です」
とわざわざ連呼するものを、ほとんどお見かけしません。オシが強すぎると品が下がりますしね。
おわりに
改めて言うまでもなく、詐欺は人として最低の行為です。
詐欺は論外としても、購買欲を刺激する目的にも権威が利用されていることは知っておいて損はないと思います。
過剰に疑うのも問題ですが、宣伝の多い世の中です。
人間の行動原理について、一通り知っておくことは必要と感じております。
それでも、極端な権威の軽量化は社会を良くない方向に走らせると私は危惧します。
- 警察官をまったく恐れない社会は危険です。
- 教師を完全に軽んじる学校は危ないです。
- 政治家をまったく信用しない国も危ういです。
権威を自ら落とした方はもちろん悪いのですが…。
よろしかったら、下記の記事もお読みくださるとうれしいです。
ポチッとしていただけるとうれしいです。