同僚が通りがかりの詐欺師に大金を奪われました。
1991年の出来事です。
スマホを使った今とは違うアナログ的なやり方ですが、人のお金を奪い取る悪質さは今と変わりません。
同僚(友人)も人の良さに付け込まれました。悪いヤツ、許せません!
新入社員時代の話です。
営業一課には私を含めて4人の新入社員がいました。
朝出社すると、いの一番に電話しまくってその日のアポイントを取ります。
4~5件のアポイントが成立すると、「行ってきます」と営業カバンを片手に会社を出ます。
「新入社員は最低でも1日に6社回りなさい」と指導されていました。
就職情報誌の広告受注の営業でした。
入社して9か月ぐらいが過ぎたある夜、私の家(借り上げマンション)に電話が鳴りました。
同じ課の新入社員Tからの電話でした。
「実は深刻な悩みがある。誰にも言わないことを約束してほしい」
いつになく沈んだ声に驚きました。Tは、関西人で、いつも明るい男だったのです。
あれから、30年近く経ちました。Tくん、もう時効でいいよね?
【詐欺被害】渋谷の交差点で怪しい男に捕まった
【夜の電話】Tから相談を受ける
「これから俺が話すこと、誰にも言わないでくれないか?深刻な話なんだ」
声にいつもの元気がないことがすぐにわかりました。
これからTの話をなるべく要点を絞ってまとめてみます。
少し長くなるかもしれません。お付き合いください。
怪しい男「お前はとんでもないことをしてくれた!」
Tはその日、いつものように大きな営業鞄を片手に持って歩いていると、いきなり一人の男に呼び止められました。
怪しい男「さっき横断歩道ですれ違った時、お前はとんでもないことをしてくれた!」
何のことかさっぱりわからず困惑するTに向かって、怪しい男は一方的にまくしたてたそうです。
- 「横断歩道で、ある人と重大なものを取り引きするところだった」
- 「ちょうどその時、俺とその人の間にお前が割り込んだ」
- 「そのため商売は不成立になった」
- 「億単位の損失が生じた」
- 「どう責任を取ってくれるんだ!?」
「おい!どうしてくれるんだ!?」
とすごまれたそうです。
謝る友人、何の罪もないのに…
話の内容が気になった私は、続きを催促しました。
Tは話を続けます。
T「俺は何度も謝った」
「何も知らなかったのです。すみませんでした」
(わびる必要なんてないですよね…)
最初は全然聞く耳を持たなかった怪しい男も、だんだん態度が軟化してきたというのです。
私はその時点で、怪しいと思いました。
ですが、私がTだったとしても、いきなりそんな話を聞かされたら動揺したに違いありません。
私「その重大なものって、もしかしたら〇薬?」
T「それは最後まで教えてもらえなかった。失敗したら命の保証はないくらい非常に重要なものと言われた」
何の罪もないTは、何度も何度も謝ったそうです。
怪しい男「兄貴分に手土産がいる」
少しずつ態度を軟化させた男は、
「わかった。お前の言うことを信じてやる」
と言いました。問題はその後です。
- 「お前がわざと邪魔をしたわけでないことは理解した」
- 「だが、とてつもない金額の損害だ」
- 「俺はお前の言葉を信用する」
- 「しかし、兄貴分にお前のことをどう説明したら良いかわからない」
- 「俺はお前を守ってやりたくなった」
まとめると、上のような展開になったらしいです。そして、
- 「俺は自分の兄貴分にお詫びに行かなければならない」
- 「損害を出したのだから、俺もどんな目に合うかわからない」
- 「詫びを入れて済むようなことではない」
- 「何か最低限の手土産を持っていく必要がある」
その後の経過ははっきり覚えていませんが、Tはその男と一緒に銀行のキャッシュコーナーに行き、全財産を渡したそうなのです。
ビビらせてから優しくなるのは騙しのパターン
新入社員ですから、全財産と言っても確か50万円ぐらいだったかと記憶しています。
とにかく全て渡したそうです。
この辺りまで話を聞いて、言えばTが傷つくと知りながら私は口にしました。
私「それ絶対騙されてるよ。ビビらせてから安心させるのは騙しのパターンだよ」
Tは、続けた。
「俺もその時は相当びっくりした」
「でも最後は俺を信用し、心配までしてくれた」
「じっくり話したけどあの人が嘘を言っていないとその時、俺は思った」
「でも、帰宅して冷静になってみると、どうも半々のような気がしてきた」
私「いや、一番大事なだけど、お前悪いこと何もしてないじゃない?」
それでも怪しい男を信じる友人
Kの言葉は、
「いや、それは確かにそうだけどあの人に迷惑をかけたのは確かなんだ」
「実は明日、〇〇でその人と会うことになっている」
「お詫びがうまくいったら、今日渡したお金を全額返してくれると言っていた」
私「そんなの来るわけないじゃん」
T「いや、俺は信じてみる。話して良い人だと感じたんだ」
私「おいおい…」
私はもうTが完全に騙されていると確信していた。
しかし一縷(いちる)の望みは、明日待ち合わせ場所にその男が来ること、それだけだった。
99パーセント来ないだろうと私は思った。
しかし、もし現れた場合、Tがさらに騙されたりカツアゲされたりする可能性はあると感じた。
私は提案した。
私「明日、俺もその場所に行くよ。知らないふりして近くに座って話を聞く」
T「お前が来たら、いきなり捕まえたりするだろう」
私「話を聞いて俺も本当だと思ったら何もしない。ただ、お金を返さなかった時には、話に割り込ませてもらう」
T「いや本当に来なくていいから」
しばらく、「行く」「来なくていい」の問答が続いた。
T「お前には待ち合わせの場所は教えない」
「だったら、お前を尾行する」と私は言った。
T「いや、本気で言うけど頼むからここは引き下がってくれ。話だけ聞いてくれただけでありがたいんだ。絶対に来ないでくれ」
結局、私は行かなかった。
警察に電話することもTはかたくなに拒んだ。
「お前だから話したんやで」の言葉が、私の行動のすべてにブレーキをかけた。
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【詐欺被害】その後の展開
怪しい男は来なかった
営業に出た社員の帰社は、いつも夜の7時くらいでした。
新入社員の私たちは、先輩たちから「今日は何社回った?」と聞かれるのが常でした。
5社回ったらギリギリ及第点。
4社以下なら理由を聞かれ、理由いかんでは厳しく叱られました。
しかし、その頃はもう4社以下でも「6社です」と答えれば済むことを同期4人は学んでいました。
私は早めに会社に戻り、Tの帰りを待ちました。
Tが帰ってきました。
その表情で結果はすぐにわかりましたが、私は念のため目で合図しました。
「どうだった?」
Tは首を小さく振りました。
次に私は、唇の動きで言葉を投げかけました。
「来なかったの?」
Tはまた小さく頷きました。
JR板橋駅前のジンギスカン屋
当時私は、板橋区成増に住んでいました。
Tのマンションは北区赤羽にありました。
西村ひろゆきさんが「大都会赤羽」とよく言う赤羽です。
まあ、大都会ではありませんよね(^_^)。
地下鉄の分岐地点だった板橋駅を降りると、駅前にジンギスカン屋さんがありました。
北海道出身の私がジンギスカンを好きだったため、よくTを付き合わせていたのです。
Tとはよくそこでジンギスカンを食べました。
いつも二人は、「仕事つまんねー」と愚痴を言い合っていました。
愚痴が多かったのは、主に私の方でした。
北海道人の私の方が、常にTより多弁でした。
その日の夜、私が誘っていつものジンギスカン屋さんに行きました。
当然ですが、Tに元気はありませんでした。
純粋だったTは、大金をだまし取られたことを悔やんでいました。
そして、怪しい男を「良い人」と信じた自分を恥じていました。
今思えば、信じなくても信じたかったのでしょうね。
友人「警察には行かない」
私は再度、警察に行くことを勧めましたが、Tは頑として受け付けませんでした。
私はTが意外に頑固なことを知っていました。
営業成績は私の方が良かったのに、いつもTは私の愚痴の聞き役でした。
「お前は自然体の人柄営業で客がつくからうらやましい」といつも言われました。
無理にでも警察に連れて行くべきだったと今は思います。
同じ被害に会う人を少しでも減らすために。
その夜、私から事件の話題を振るのはやめにしました。
別の話題で静かにジンギスカンを食べました。そんな夜の記憶がうっすらと残っています。
【詐欺被害】あれから30年の歳月が流れて
この話は会社の先輩はもちろん、上司にも同僚にも、誰にも話しませんでした。
でも、あれから30年経ちました。
今ならTも許してくれるような気がします。
もう何年もTと連絡を取っていません。
このブログを読んだら、「俺のこと書いたな」と絶対にわかるはずです。
だから、せめて匿名にしておきます。ただしイニシャルのTは本物です。
読んだら連絡くれたらいいなという気持ちもあります。
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いずれにしても、この相手の男、最初から騙す気だったのは間違いありません。
同じ手口に引っかかった若者は他にたくさんいると思います。
騙しの手口をまとめておきます。
1.人を騙すなら大きく騙す
- 「数億の損害」でTはすっかり萎縮してしまった
- 小さい金額ならTも冷静でいられた可能性が高い
2.激しく凄んで精神的ダメージを与えた
- 冷静な判断力をTから奪った
3.タイミングを見て許し、同情を誘った
- 刑事の「落としのテクニック」?
4.「お前のために俺が命がけで詫びに行く」
- 浪花節をちらつかせ、良い人を演じた
- 震え上がっていたTには救い主にも見えたかもしれない
5.「誰かに話したことがばれたら俺の命が危ない」
- 書きながら今思い出したが、Tはそんなことも言われたと言っていたような記憶が…
- いかにも嘘くさい…
6.明日無事なら落ち合おう。その時は、今日のお金は責任を持って返す
- もしかしたら、お金が戻ってくるかもという期待感と安心を与えて払わせる
今ではこういう手口は古典的部類に入るのかもしれません。
それにしても、何の罪もない若者を驚かせて、精神的ダメージを与えて、善意につけこんで、お金を貪りとっていく…。
相手の男は、うまく行ったと思っていたに違いありません。
世の中には、こんな卑劣な人もいるのだと、ずっと昔のことですが、思い起こせば腹が立って仕方がありません。
長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。
Tは、守口市に戻って親の家業を継いでいるはずです。
怪しい男も、きっとどこかで心が荒んだ不幸な暮らしをしていることでしょう…。
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