「リストカット」は主に手首を切ることですが、似た言葉に「アームカット」があります。
文房具のカッターなどを使って腕を切りつける行為のことです。
私が初めてアームカットの傷を見たのは23年前のことでした。
教員生活2度目の新1年生の担任として張り切っていた時期です。
中学校から「心配な子」と事前に連絡があった女子の腕に、無数の切り傷がありました。
入学後2か月が過ぎて「そろそろ信頼関係ができたかな」と思った時期に呼び出して聞いてみました。
Mさん「イライラした日の夜、カッターで切っています」
明るい表情はほとんど見せない生徒でした。
私「よく話してくれたね。これからは、ツラいことやイライラすることがあったら話をしてね」
「わかりました」と言ってくれましたが、きっぱりした感じはなく、わずかな笑顔を見せただけでした。
案の定、その後Mさんから私に「話を聞いてください」と言ってくることは一度もありませんでした。
無事に卒業できましたが、最後まで腕から傷が無くなることはありませんでした。
普通は半袖になる夏の季節しか腕を見ることはありませんが、Mさんはオールシーズンにわたって、時々ワイシャツの袖をまくっていました。
「この傷を見て!」という思いがきっとあったのでしょう。
【Mさんのアームカット】依存心と不信感との葛藤
【Mさんのアームカット】「苦しんでいる私を知ってほしい」
アームカットする生徒のほとんどは腕を隠します。
Mさんの場合は、常にワイシャツの袖をまくっていたことから、
「苦しんでいる私を知ってほしい」
という気持ちがあったのだと思います。
その証拠に、個別に呼び出すと毎回ほんの少しだけ笑顔を見せました。
でも、質問に対しては沈黙も多く、ポツリポツリしか語りません。
場の雰囲気の作り方と、間の持たせ方で私も苦心しました。
忙しい時は口を開いてくれないと、こちらも少しはイライラするものです。
しかし、Mさんみたいな子は大人の感情には敏感ですから、苛立つ素振りを見せるわけにはいきません。
最後は毎回、「話してくれてありがとう」「気持ちがわかって安心したよ」
と言って面談を終えることにしていました。
【Mさんのアームカット】その原因の考察
今にして思うのは、次のことです。
Mさんは、
- 心の中に大人への不信感があった
- その反面、大人に甘えたい気持ちは強かった
- 不信感が拭えないため気持ちの全てを語ることはしなかった
- とはいえ、自分に関心を持って欲しかった
- 元々の性格として多くを語るタイプではなかった
大切なのは、原因究明とその後の対応です。
原因として、当時は次のように推測しました。
- 親が忙しく、子どもに費やす時間が少ない
- 親が極端に厳しく、言い訳などの話を聞かない
- 親の道徳教育が厳格すぎる
- 両親が不仲など家庭の状態が不安定
- 親の性格があっさりしすぎていて愛情が子どもに伝わっていない
- 思春期特有の反抗期
- 発達の障害を持っている
Mさんに関しては、上の1~6のいずれか、または何点か重なるだろうと考えました。
7はなさそうでした。
何度か母親と話をし、卒業後にMさんがちらっと話してくれた感じでは、1と4と5が主な原因だったと思います。
「ようです」というのは、卒業後にわざわざ詮索しませんし、本人が考えたくないことを質問するなど、いくら図々しい私でもやらないからです。
3年生のクラス替えでMさんは別のクラスに行きました。
卒業後の足取りはわかりません。
なんとなくの直感ですが、社会人としてちゃんと生活しているような気がしています。
不安定な思春期の時期を乗り越えれば、気持ちも強くなり着実に歩んでいくような予感を感じさせる雰囲気はあったからです。
これはあくまでも私の直感ですが…。
お母さんですか?かなり派手な身なりをしていました。
話をしても、私の話を受け止めてくれているのかどうか不安な感じがする人でした。
お母さん自身に、教員に対する不信感があったような気がしました。
こういうケースになると、事の解決はなかなか難しくなります。
言えることは、親が教師に対して持つ不信感は必ず子供に伝わるということです。
ですから私はよくお願いしていました。
「学校に対して、不満や不信感がある場合にはお子さんと一緒に悪口を言わず、こっそり電話してきてください」
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【Yさんのアームカット】明るく元気な外見の裏に…
【Yさんのアームカット】親には本当の自分を見せられない
次に紹介する女子高生はYさんとしておきます。
Mさんの時は、アームカットされた腕を見たのは初めてだったので、私も一瞬引きました。
大事なこととして、手首は切っていませんでした。
死ぬためではなく、自傷行為によってストレスを解消しているという感じでした。
そのことは、本人に慎重に確認しました。
どうもMさんの後の世代から、アームカットの割合が増えたような気がします。
その後の観察から、「時々いる」ことがわかりました。
もしかしたら、Mさんの学年に他にも数人いたのかもしれないと思っています。
慣れというのは恐ろしいもので、その後数人のカッターで切られた腕を目にしましたが、私もあまり驚かなくなりました。
だいたいは、腕や肩に薄くて長い傷があります。
深くはありませんが、かなり痛いと思います。
傷の長さと深さは、心の苦しみに比例すると思います。
Yさんは「明るく元気でリーダーシップを発揮できる女子」と学校でも思われていたようです。
友達からも「少しわがままなところがあるけれど、明るく元気で楽しい子」と認識されていたらしいです。
私はお母さんから話を聞きました。
経緯はこういうことです。
担任からお母さんに「絶対に内密の話をしたいのですが」と電話があり、学校で話を聞いたそうです。
担任から伝えられたことをまとめると、
- 家に帰ると、自分の部屋に引きこもることにしている
- 学校でめいっぱい気を使っているので、家では本当の自分が出てしまう
- 本当の自分は暗くて内気で弱虫
- 自分の本当の姿を母親に見せると心配をかけてしまう
- 部屋に籠れば、心配をかけないで済む
- 学校で明るく振る舞う理由は、本当の自分を出すといじめられるから
- 明るくて強気な自分を演じていればバカにされることもない
- 本当の私を知る人は数人の親友だけ
- 小学生の頃、いじめに遭った時期がある
などを担任に話して、腕の傷を見せたらしいのです。
Yさんは担任を信頼していたのでしょう。
「絶対に誰にも話さないで欲しい」と言って打ち明けてくれたそうです。
悩んだ末に、担任はこっそり母親に話すことを決意したということです。
決意した最大のきっかけはYさんの次の言葉でした。
「今日の昼休み、教室の窓から飛び降りたい衝動に駆られた」
【四柱推命】壬子日生まれ「官殺混雑格」良い命式
Yさんの命式です。
月支「偏官」の官殺混雑格ですが、日干のエネルギーも強く、バランスの整った良い命式です。
官殺が強く、さまざまな苦労は襲ってきますが、
- 日支の十二運が「帝旺」と強い根がある
- 日支に「刃」まである
これらがしっかり身を守ってくれています。
紆余曲折はあるにしても、良好な命式です。
問題が起きても、十分に乗り越えるパワーのある女子とわかります。
日干身旺で、生活力も旺盛な人です。
ですから、一時的に苦しい時期はあっても、基本的には大丈夫な人です。
むしろ、官殺混雑格ということで、将来異性関係で苦労することの方が心配です。
それでも、女性でこれだけ身旺だと、振り回されることはないと思われます。
たいていの男性となら、自己の主張を通し対等以上にわたりあって行ける人でしょう。
ただし、セールスなど営業の仕事には向いていないような気がします。
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【Yさんのアームカット】その原因と対応
さて、こんなに良い命式なのにどうして切り口は薄いとはいえ「リストカット」をしたのでしょうか。
どうも、その年の年運に原因があったように思われます。
2020年(令和2年)
第3運 13~22歳 大運【丙 午】偏財運 南方火運
19 歳(数え年) 歳運【庚 子】偏印運 羊刃
日干のエネルギーが必要以上に強くなり、命式のバランスが大きく崩れる一年でした。
そうすると、どうしても迷いや悩みが多くなります。
さらに問題は、歳運と大運が天戦地冲になることです。
精神不安が起きやすく、対人関係の悪化にも要注意の一年でした。
- 歳運の地支・・・子
- 大運の地支・・・午
命式にも、
- 年柱の地支・・・午
- 日支の地支・・・子
「午」と「子」とは七冲のバトル関係です。
精神不安が起きやすいのは明白でした。
Yさん本人は「本当の私はものすごく弱い性格」と言うそうですが、全然そんなことはありません。
頑固で気難しい面はありますが、大事な場面では不思議な底力を発揮できる人です。
- 行動力と処理能力がある
- 本質的気質は、やや強気の部類
- 負けず嫌いで義理には厚い
- 後輩の面倒見などは良い
- 一途に頑張るが、淡白で粘り強さに欠けやすい
- 冒険心に富み、他人から非難されやすい
- わがままなところがあり、イヤなことには頑として取り組まない
最近、お母さんから連絡がありました。
元気に大学生活を楽しんでいるそうです。Yさんはすっかり立ち直りました。
参考のために立ち直れた理由をまとめてみます。
- Yさん本人が本質的には強い人
- 担任がYさんから信頼されていた
- 母親が担任の言葉をしっかり受け止めた
担任から話を聞いた後のお母さんの対応
- 基本的には家での様子を変えないようにした
- 無理に話を聞き出すことはしなかった
- 少しずつ会話を増やすようにした
- さりげなく、顔色を観察するようにした
- それまでは、勝手に早退すると叱っていたが叱らないようにした
- 「体調が悪い」と訴えてくる日は無理に登校させないようにした
- お母さんの「忙しい顔」を減らすようにした
私も、
「欠席と早退にうるさいところ(以前は厳しかったらしい)を緩めるだけで良いと思います」
とお伝えしました。
月支に「偏官」があり、人の感情にやや敏感なので急に態度を変えると感づかれてしまうこともお話ししました。
残念なこととしては、親との関係性は薄くなる命式です。
そのぶんというわけではないですが、兄弟との縁は浅くありません。
それを伝えますと、「すぐ上のお兄さんとはとても仲が良い」と教えてくれました。
「なかなか運も気力も強いお兄さんだと思われます」
とお伝えしたところ、
「それほどでもないですが、北大に通っています」「長男もいるのですが、そんなに仲良しでもありません」
どうやら次男のお兄さんが命式に出ている人のようです。
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